
「今でも納得いかなくて忘れられないことがあるんだよねー。」
お茶の時間にくつろいでいたら、19歳になる娘が唐突に話しだしました。
幼稚園の工作の時間に「ももたろうにでてくるどうぶつをねんどでつくる」というお題が出た時のことです。
まずは図書室に行って動物の図鑑を見て、好きな動物をえらんでそれぞれ紙粘土で作り、着色して完成をさせる、という手順でした。
娘はキジを作ろうと決めました。
図鑑を見てとても綺麗だなと思ったからです。
紙粘土でキジの形を作り、キジの様々な色味に変化する美しい羽を、娘はカラフルに塗り上げました。
冒頭の写真はその実物です。
それを見た、幼稚園の先生が
「キジの羽の色はこんな色じゃないよ」
と言ったそうです。
娘は『ちゃんと図鑑で見たもん。羽がいろんな色に光ってたもん!』と思ったけれど、何も言わずにそのまま自分のキジを完成させました。
また別の日、今度は「じぶんのかおをかく」というお題がでました。
それは、顔だけを描いて丸くくり抜いてクラスの壁に貼るためのものでした。
「首は描かないでくださいね〜」と先生は言いました。
娘は考えました。
首を描かずに顔だけ描くのだったら、首がないのだから後ろにある髪の毛が前から見えるだろう。だったら顔の下には髪の毛が見えていないとおかしいな、と。
黒髪ロングな娘。
娘の顔の周りは黒で塗りつぶされました。
それを見た先生は、
「えー!おかしいよ!ヒゲみたい!」
いや、首がなければ髪の毛が前から見えるんだ!と娘が反応しないでいたら、何度も「おかしい、おかしい」と言われ続けたので、仕方なくもう一度先生の言う通りに顔を描き直ししたんだそうです。
かくして、クラスの壁には、顔の横だけに髪の毛のあるみんなの顔がズラッと並ぶことになりました。
「けれども、今でもあれは納得できない。どんなことを考えて描いたかひとこと聞いて欲しかったよね。」
お茶をすすりながらそう話す娘に、4〜5歳の時分に先生から「違うよ」と言われて、よく自分の意見を持ち続けることができたなと、私はほぉ〜っと感心してしまいました。
それと同時にアドラー育児を知ることが出来て私は本当にラッキーだったな、と思ったのです。
私が育児プログラム「パセージ」を受講したのは、娘が中学2年生のときでした。
それまでは、ご多聞にもれず娘の話を聴くこともろくにせずに散々私の意見を押し付けてきました。
この幼稚園の先生が何も特別なわけではありません。
ついつい、私たち親は大人の価値観で物事を判断して子どもの考えていることや好きなことをないがしろにしてしまいます。
その親の傲慢さや、どんなに小さくても子どもには考える力があること、そしてどんな親でも受け入れてくれる子どもの寛容さに気づかせてくれたのが「パセージ」のプログラムでした。
もし出会っていなかったら、今でも娘にゴリゴリと私の意見を押し付けて娘を思うように動かそうとしていたに違いありません。
そんな幼稚園時代のこだわりの思い出を話してくれた娘は自分の「好き」を大切に育んでこの春、美大生になりました。
子どもの力はどんな場所でどんな花を咲かせるのか本当にわかりませんね。
その芽を摘み取ることなく、健やかな成長を見守り応援していきたいものです。
娘が自分で考え、選び、人生を自分の足で歩むために、親ができるアシストの仕方を教えてくれたアドラー心理学と「パセージ」に心から感謝する日々です。
「パセージ」の子育てがどうかひとりでも多くの人の元に届きますように。
伊澤 幸代
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東京都武蔵野市吉祥寺・世田谷区を中心に、アドラー心理学にもとづく育児の勉強会を開催しています。 くすのきの会は『アドラー銀杏の会』の姉妹グループです。